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大阪高等裁判所 昭和27年(ネ)438号 判決

控訴代理人は原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却を請求を棄却する訴訟費用は一、二審共被控訴人の負担とするとの決判を求め被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、

控訴代理人において行政庁における懲戒処分の認定は懲戒権を有する当該行政庁においてのみ行為に対する合目的性を判断しうるのであつて裁判所のみだりに服務乃至懲戒規定の内容解釈合目的性および処分の軽重の程度にまで立入て裁量処分に属する適不適を判断するは司法の限界を逸脱したものというべく本件は、被控訴人に違法且つ非行があつたので服務規律違反として告発せられて審判委員会の裁決を求めた結果同委員会は警部補という幹部職員の本分を忘れ「ふさわしくない行為」に該当し警視庁職員としての適格性を欠いているものとして懲戒免職を適当とする旨裁決して控訴人にその処分を勧告したもので控訴人は基本規程第百二十七条に基き処罰したのであるそうであるから右裁量乃至懲戒権の行使は大阪市警視庁の合目的性に基く行政権の便宜裁量に属する事項であつて裁判所はこれに対する当不当の裁判をなし得ない旨附陳し、被控訴代理人は行政庁の裁量に属する事項について当否を争ふ如きは法律上の争訟に属しないとの控訴人の主張は行政庁の裁量に全く委ねられた事項所謂便宜裁量、目的裁量については正当であるが法規裁量事項については裁判所が介入し得且つ介入を要すること憲法第十一条第三十二条より見て明瞭である本件は裁判所法第三条が「一切の法律上の争訟」――当事者間における権利義務に関する争のある場合の具体的法律適用の保障に――該当する、単に政治上技術上の問題を裁量する便宜裁量とは異り大阪市警視庁設置条例、基本規程、懲戒規程等を施行してこれに則り拘束せられて行政処分のなさるべきことを保障したものであるからこれらの条項に違反してなされた本件行政処分を違法として争い得べきものであり従つて裁判所の介入し得ることであるから控訴人の右主張は理由がないと述べた外原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。(各証拠省略)

三、理  由

被控訴人が大阪市警視庁警部補の職にあつたこと、被控訴人が昭和二十五年十月三十一日被控訴人を被告発人とする懲戒事案につき同警視庁警視正山瀬鶴夫外二名を委員とする審判委員会の審問に付されその結果同審判委員会が右事案について被控訴人を有罪と裁定し懲戒免職処分相当との裁決をなし、控訴人が右裁決の実施として同年十一月四日被控訴人を懲戒免職処分に付したこと右懲戒事案の内容が(1)被控訴人は昭和二十二年秋頃知合いとなつた平瀬正夫およびその妻まつ子と交際するうち右平瀬正夫が在、不在中に拘らず屡々同家に宿泊する等のため昭和二十五年四月頃になつて遂に平瀬より両人に肉体関係ありと疑惑を持たれ交際を拒絶されるに至つたがその後も数回同家を訪れ又六月頃偶然新世界で出遇い飲食中を平瀬に見られて疑惑を深くし(2)又平瀬が詐欺師で且つ博奕打であることを知つていながら敢て金品の貸借をなす等警察吏員としての襟度を忘れふさわしくない行為のあつたものである、というのであることいずれも当事者間に争がない。

(一)  被控訴人は大阪市警視庁基本規程第百三十六条第二項、警察職員懲戒規程第二十五条第三項の規定によれば被告発人には全証人には全証人を対決させなければならず、また被告発人がその欠席中審問を行うことに同意書を書かない限りその欠席中証人から証言をとることはできないにもかゝわらず前記審判委員会は昭和二十五年十月三十一日本件懲戒事案の審問において告発人として立会つた石田監察課長をして証人平瀬まつ子の供述調書の要旨を読み上げさしただけで同証人の被控訴人とを対決せしめず、また右供述調書は被告発人たる被控訴人のいないところで同人の証言をとつたものであるからこの審問手続は前記規定に違反し違法であると主張するが基本規程第百三十六条第二項懲戒規定第二十五条第三項に被告発人と対決させるべきことを規定した証人とは、審判委員会が証人を審判委員会の審問に出頭せしめるにつき法規上何等強制的な権限が審判委員会に与へられていないこと、呼出に応じない証人のある場合これに対処すべき別個の規定がないことに鑑み、審問期日に任意出頭した全証人と解すべきであつて出頭に応じない証人との対決を案するものと解することはできない、それであるから右の場合、被告発人において対質しないで審問手続を終ることにつき異議を申出て更に証人を同行するから再度の審問を求める等特段の申出がない限り対決せざることを得るものと解するを相当とする、成立に争のない乙第一号証原審および当審証人松隈勲の証言によれば本件審問において出頭した証人盛喜祐吉、木本悌治と被控訴人とはいづれも対決させ、証人平瀬正夫、平瀬まつ子は審問に呼出されたが出頭しなかつたので被控訴人と対決されることができなかつたこと、被控訴人においても対決しないことにつき異議その他別段の申立をしなかつたことを認める他に右認定を覆す証拠はないから右証人を被控訴人と対決せしめなかつたことを以て前記各規定に反する違法の手続といふことはできない。そして右規定中被告発人がその欠席中審問を行うことに対し同意書を書かない限りその欠席中証人から証言をとることはできないというのは審判委員会の審問に被告発人が欠席した場合の審問に関する規定であると解すべきであつて告発人が審問期日外において予め取調べた関係人の供述調書に適用のないことというまでもない。そして前記の如き供述調書と雖も審問期日において朗読しまたは要旨を告げる等の方法により証拠調のなされた限りこれを証拠となし得るものと解するを相当とするから被控訴人が本件審問期日に出頭していることを自認している本件においては右規定の適用なく又成立に争のない乙第一号証第四号証によれば平瀬まつ子に対する第一回供述調書を朗読したものであることを認められるからこれを判断の資料としたことを以て違法であるということはできない、被控訴人の右(一)の主張は採用しない。

(二)  前記基本規程第百三十六条第一項前段、懲戒規程第二十五条第一項の各規定によれば審判委員会は審問中は綿密且つ公正な調査をするため、あらゆる努力をしなければならないものであるにかかわらず前記審問委員会は前記審問において告発者石田監察課長をして証人平瀬まつ子の供述調書の要旨を続み上げさせたほかは被控訴人の要求にかかる証人木本悌治、盛喜祐吉を訊問し被控訴人に対し二三の質問をなしたのみで審問を終了しこれに基きたやすく被控訴人を有罪とし懲戒免職を相当と表決したのであつて右の程度を以てしては到底綿密公正な調査のためにあらゆる努力をしたとしがたいからこの点につき審問手続は違法であると主張するが、

乙第一号証によれば審判委員会において平瀬正夫平瀬まつ子が出頭しなかつたため委員長は告発石田監察課長をして平瀬まつ子の供述調書を朗読させて被告発人なる被控訴人の要求にかかり期日に出頭した証人木本悌治、盛喜祐吉ついては事実に関し十分な審問がなされまた被控訴人にも発言の機会が与へられ被控訴人自ら懲戒事案につき自己の意思弁解を十分に陳述していることが認められ他に右認定を左右する証拠はない。そして本件懲戒事案につき最も重要な証人と目すべき平瀬まつ子平瀬正夫が審問に出頭しなかつたため対決させられなかつたことを以て違法となしがたいこと前記認定の通りであるからこれ等の証人の再度の呼出のため更に期日を定めて審問を続行する等適当の措置を講ずることが一層慎重であつたといえないこともないけれど他面乙第一号証によれば右証人が新期日に確実に出頭することを期待することの出来なかつた事情を看取し得るからこの措置を取らなかつたことを以て違法とすることは出来ない。要するに前記認定の事実程度の審理を以て右規定の趣旨に添う審問がなされたものと認めるのが相当であるから右(二)の主張も採用することができない。

(三)  控訴代理人は本件懲戒事案につきなした審判委員会の裁決乃至雄訴人のなした懲戒処分は大阪市警視庁の合目的性に基く行政権の便宜裁量に属する事項であつて裁判所にこれに対し当不当の裁判を為し得ないと主張し被控訴代理人は本件は大阪市警視庁設置条例、基本規程、懲戒規程等を施行しこれに則り行政処分のなされることを保障したものであるから所謂法規裁量事項に属しこれに違反してなされた本件行政処分は違法として争ひ得るものである、そして本件懲戒免職処分は基本規程第百三十七条第一項後段懲戒規程第二十六条第二項に違反し裁量の限度を超えた過重違法の処分であると主張すから案ずるに、地方公務員に対する懲戒処分は地方公共団体がその勤務秩序維持のために科するのであつて処分権者はある程度の自由裁量権を有するものであるが他面公務員の自由と権利を尊重するため懲戒権者の裁量の範囲には一定の限界が存するものと解すべきである大阪市設置等に関する条例第十条によれば警察職員が左の各号の一に該当する場合においてはこれに懲戒処分として免職、停職、減俸、又は戒告の処分をすることができるものできるものとし(1)この条例又はその他の諸規定に違反したとき、(2)職務上の義務に違反し又は職務を怠つたこと、(3)警察職員としてふさわしくない行為又はその他の非行のあつた場合を掲げ更に大阪市警視庁基本規定第百四十二条に懲戒処分をなすべき場合を細別して列挙しているから懲戒権者は告発せられた事案が果して懲戒処分に値するかどうか、懲戒処分に値するとはどの程度の処分をするのか適当であるかということについて客観的に妥当な判断をなしこれに基き所定の懲戒処分中にこれに相当する処分を選択すべきのである、事案の存否の判断に著しく妥当を欠き又は処分の選択を誤り懲戒自由にあたる事案が存しないのに懲戒処分に付したり又は一定の限度に達しない軽い事案に対しそれよりも著しく重い懲戒処分に付することは違法であると解するを相当としかゝる違法の行政行為は裁判所の裁判の対象となるものといはねばならない。

そこで本件懲戒事案について被控訴人を有罪と裁定し懲戒免職処分に付したことが果して裁量の限度を超えた違法の処分であるかどうかについて考へるに、

(1)の事案につき、成立に争のない乙第一号証第二号証の一二第三、四号証第六号証原審証人戸高義篤、平瀬正夫、平瀬まつ子笠置静枝の各証言原審における被控訴人本人訊問の結果を綜合すると平瀬正夫は大阪市住吉区駒川町十六番地で妻平瀬まつ子ほか四名の家族と共に居住して金物委託販売業を営んでいたものであるが昭和二十二年秋頃被控訴人は田辺警察署勤務中同じく同警察署に勤務していた警部補戸高義篤を通して右平瀬夫婦と知り合になり爾来平瀬夫婦との交際が始まつたのであるが被控訴人と平瀬まつ子とは共に鹿児島県出身であることから親しく交際するようになり平瀬まつ子も被控訴人が妻に別れ男手一つで五人の子を養育している境遇に同情し時々同人の洗濯物などの世話をしていたこと、平瀬夫婦は昭和二十三年初大阪東住吉区山坂町に次いで二年後同区北田辺町に、更に昭和二十五年六月同市住吉区桑津町へ転居したがその間被控訴人は屡々平瀬夫婦を訪れ酒食の饗応を受け同家に宿泊し正夫の不在中にも平瀬まつ子を数回に亘つて訪問し共に飲食し宿泊したことがあつたこと、昭和二十四年十一月被控訴人は平瀬まつ子と共に笠置静枝方を訪れた際同家に一泊したことがあること、平瀬正夫がこれらのことから被控訴人とまつ子との間に性的関係ありとの疑感を抱くに至り昭和二十五年四月頃被控訴人に対し家庭不和の原因となるとの理由で交際を断つことを申入れ被控訴人もまつ子との交際を断つていたこと、その後同年七月二十四日頃被控訴人と平瀬まつ子とが新世界において偶然出会い飲食店で飲食するに至つたが現場を右のような疑念からまつ子を尾行していた平瀬正夫に発見され同人をしてさらに右の疑念を深くさせたこと。平瀬夫婦は両人の婚姻後が朝鮮出身なることを秘して婚姻したことが判明し夫婦の間に紛争を起したことがあり又正夫は嫉妬心深くかつてダンス教師平田某とまつ子との関係につき悪い風評が立ち両人の間を疑ひ離婚問題を起したこともあり、とかく夫婦間の円満を欠いたものであること等を認定することができる、他に右認定を左右する証拠はない、してみると、被控訴人と平瀬夫婦の交際の始まつた事情が前記の如くであるから被控訴人が同人等に親密に交際すること自体を非難すべき筋合ではないとしても平瀬夫婦と交際しているうちに両人の性格や家庭の内情殊に夫婦間に円満を欠いていたこと等を覚知するに至つたこと乙第一号証により看取することができるから右の様な事情の下において中年独身の男性たる被控訴人が夫が不在中その妻と飲食を共にし度々宿泊するということは嫉妬深い夫正夫の邪推や誤解を招くおそれのあるものといふべきであつて、十分に戒心すべきことであるといはなければならない。また新世界において偶然まつ子と出会い飲食を共にしたことも通常の場合であるならば久しぶりで会つた旧知の人との交際としてあへて責むことではないといへるかも知れないが被控訴人は夫正夫よりまつ子との交際を断はられしかもその理由が前記の通りであつたのであるからたとえ路上で偶然に会つたとしても再度飲食店で飲食を共にすることは避くべきであつたといはねばならない、被控訴人が思ひをここに致さなかつたのは誠に遺憾であつてたとへ平瀬正夫の嫉妬心に出でたものであつて故意に被控訴人がこれを挑発したものでないとしても警察職員として少くとも不注意であり不謹慎のそしりを免がれない。

次に(2)の事案につき成立に争のない乙第四号証第五号証第七号証原審証人平瀬まつ子原審における被控訴人の訊問の結果を綜合すると被控訴人が昭和二十四年夏頃平瀬まつ子に金六千円を貸与し同人より海水着を借り同年末頃同じく女子の正月用衣類を借りたことを認め得るけれども平瀬正夫が賭博や詐欺の常習者乃至所謂いかがわしい人物であることを認めるに足る証拠はない(乙第六号証第七号証中此の点に関する記載部分は乙第一号証原審における被控訴人本人の供述に照し信用しない)そして右六千円を貸借したのは平瀬正夫が商用で鹿児県へ出向つたまゝ生活費の仕送りをしなかつたためまつ子の生活に窮していたのに同情し右金員を貸与したものであることを認め得るから被控訴人が平瀬まつ子といかがわしい人物であることを知つて交際したのではないのであつて右金品貸借関係も右交際に伴ひ派生したことにすぎないこれを甚しく非難することに当らない。

そうすると事案(2)については警察職員としての襟度を忘れ警察職員としてふさわしくない行為と認むことはできないから此の点につき懲戒事由ありと認めた審査委員会の裁定は違法と云ふべきである事案(1)については被控訴人に警察職員としてふさはしくない行為があつたものと認めて審判委員会の裁定は此の点に関する限り違法とはいえない、然しながら右事案の性質や、乙第六号証により認め得る被控訴人の職務経歴が、乙第一号証により認め得る被控訴人の勤務成績が、概ね良好であつたこと改悛の情も顕著であること等を参酌して考察すれば右(1)は軽徴な事案というべきであつて之に対し懲戒免職処分を科することは其の選択を誤まり著しく過重に出でたものであつて社会通念上著しく妥当を欠く違法の裁定といわねばならない。

以上の通りであるから違法の裁定に基く審判委員会の裁決勧告の実施として本件懲戒処分は違法であるからこれが取消を求める被控訴人の請求を認容した原判決は結局相当であつて本件控訴は理由がない。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 三吉信隆 萩原潤三 小野田常太郎)

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